2025年4月21日から28日にかけて、広島県議会北欧行政視察団の一員として、フィンランド共和国およびエストニア共和国を訪問しました。少子高齢化、教育、福祉、デジタル行政、モビリティー政策などの分野で先進的な取組を実施する両国の事例を学ぶことで、広島県の政策検討への活用を目的としたものです。
■ 訪問国の紹介
【フィンランド共和国】
北欧に位置する福祉国家。高い教育水準と世界トップクラスの幸福度を誇り、森林と湖に囲まれた自然環境の中で、イノベーションと人間重視の政策を推進しています。教育、子育て、再犯防止などの分野で多くの先進事例を有し、2023年にはNATOに加盟するなど安全保障にも積極的に関与しています。
人口:5,637,214人(2024年)
面積:338,145 km²
GDP(名目):3,060.83億米ドル(2024年)
経済成長率:2024年は-0.5%、2025年は0.8%と予測
議会制度:一院制(議席数200)、比例代表制
進出日系企業数:156社(2023年時点)
在留邦人数:2,483人(2023年時点)
【エストニア共和国】
バルト三国の一国で、旧ソ連からの独立後、世界最先端の電子政府を構築。インターネット選挙、オンライン本人確認、教育のICT化、スタートアップ支援など、人口約130万人の国ながら「デジタル先進国」として世界的な注目を集めています。
人口:1,369,995人(2025年1月1日現在)
面積:45,335 km²
GDP(名目):434.86億米ドル(2024年)
経済成長率:2024年は-0.6%、2025年は2.2%と予測
議会制度:一院制(議席数101)、比例代表制
進出日系企業数:128社(2023年時点)
在留邦人数:282人(2024年時点)
■ 主な視察内容(フィンランド)
【オーディ図書館(Oodi)】

ヘルシンキ中心部に建つ新しい世代の公共図書館「Oodi」は、単なる読書スペースにとどまらず、市民の創造活動・交流・学びの拠点として設計された革新的な施設です。館内には3Dプリンタや音楽スタジオ、会議室、子ども向けスペースなど多様な機能があり、多世代の市民が自然に交わる場所として活用されています。公共施設の可能性を再認識させられる視察となりました。
【トゥオービ・ハクリネン氏との交流会】
社会保障、教育、ジェンダー政策など幅広い分野について、現地の専門家トゥオービ・ハクリネン氏との意見交換を実施しました。フィンランドの福祉国家の成り立ちや、少子化と若年層の意識変化、さらには社会的包摂の重要性などについて、現場での経験を交えて率直な話を伺うことができ、北欧の価値観や制度設計の深さを理解する機会となりました。
【小学校視察(エスポー市)】

エスポー市の小学校では、子どもの個性を尊重した学びや、遊び・体験を重視した教育が実践されており、教師と生徒・保護者との距離の近さが印象的でした。また、学校施設に図書館やユースセンターが併設され、地域住民の学びや交流の場としても活用されています。学校が単なる教育機関ではなく、地域コミュニティの核として機能している点が特筆されました。
【Iso Omenaショッピングセンター内 ネウボラセンター】

ショッピングセンター内に設置されたネウボラセンターでは、妊娠期から就学前までの切れ目ない支援が、保健師を中心に提供されています。健康診断、相談、福祉手続きが一か所で完結できる「ワンストップサービス」が整備されており、利便性の高さが特徴です。多機関連携による支援の速さと、利用者の生活動線に溶け込んだ運用設計は、日本における子育て支援施設設計の参考となりました。
【フィンランド大使公邸訪問】

フィンランドの社会構造や外交姿勢、今後の対日関係などについて、岡田大使らと意見交換を行いました。
【運輸通信省視察】

フィンランドの運輸通信省では、交通と通信インフラの持続可能性とデジタル化に関する国家戦略について説明を受けました。特に公共交通機関と自動運転、再生可能エネルギーとの統合、5G/6Gの社会実装に関する先進的な取り組みが紹介されました。スマートシティ化の一環として行政が主導する計画と民間との協働体制は、地方都市の未来像を考える上で非常に有益な視察内容でした。
■ 主な視察内容(エストニア)
【電子政府の概要と導入事例】

エストニアでは、政府サービスの99%以上がオンラインで完結可能な体制が整備されており、行政の効率化と透明性の向上を実現しています。視察では、国民が出生から死亡までほぼすべての行政手続きをオンラインで完了できる仕組みについて、担当官から具体的な事例を交えて説明を受けました。世界最先端の行政デジタル化の取組を、実際の運用現場から学ぶ貴重な機会となりました。
【X-Road(電子政府インフラ)】
X-Roadはエストニアが開発したデータ連携基盤であり、官民問わず様々な情報システムが安全に接続・共有されるための技術的・法的インフラです。視察では、この仕組みにより省庁間・医療機関・教育機関・金融機関などがリアルタイムにデータをやりとりし、行政手続きが迅速かつ正確に行われている実例を確認しました。この基盤が行政の信頼性を支える核心であることが理解できました。
【Smart-ID(オンライン本人確認ツール)】
Smart-IDはスマートフォンを使って本人確認を行うツールであり、銀行取引、行政手続き、契約行為などで広く利用されています。視察では、その高度なセキュリティと利便性の両立、及び国内外における普及状況について紹介されました。モバイルベースで公的な本人確認が可能となることで、社会全体のデジタル化が進展する様子を実感しました。
【産官学連携の取組視察】
エストニアでは大学・企業・行政が一体となったイノベーション創出に取り組んでおり、視察ではスタートアップ支援プログラムや実証実験フィールドの活用状況について説明を受けました。特に教育現場から社会実装までを一貫して支える制度設計や、小規模国ならではの柔軟な政策運営の実態は、地方自治体にとっても参考となる内容でした。
【タリン工科大学(高等教育視察)】

タリン工科大学はICT・エンジニアリング分野において国際的に高い評価を得ており、企業との共同研究、実践的な教育カリキュラム、人材育成戦略の三本柱で構成されています。視察では、大学が起点となり地域産業を活性化させている実例や、学生が起業する文化を育てる制度設計に触れ、教育の社会的波及効果を再認識しました。
【モビリティ分野(公共交通・自動運転)】
エストニアでは公共交通を無料化している自治体が多く、特に首都タリンでは市民の利便性向上と環境負荷低減を両立しています。また、自動運転バスやモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)に関する国家戦略と実証事例が紹介され、次世代の都市交通モデルとして非常に先進的であると感じました。地方における交通政策の再設計にヒントを得る内容でした。
【ITスペシャリストによるブリーフィング】
エストニアのICT政策を支える政府職員より、デジタル人材育成戦略、国家IT構造、国民への教育・啓発活動などに関する説明を受けました。IT教育の初等段階からの導入や、公的機関のセキュリティ強化の方針、国外への技術輸出事例も示され、小国ながら国際的なデジタル影響力を築くエストニアの全体像を把握することができました。
【エストニア大使公邸訪問】

エストニア大使公邸では、日・エストニア両国の経済交流や教育連携、デジタル技術分野での協力可能性について意見交換を行いました。デジタル主導の社会構築がどのように国民の生活に根づいているかを共有いただき、特に自治体レベルでの応用の可能性について多くの示唆を得る場となりました。
■ 今後への活用
今回のフィンランド・エストニア両国における視察では、教育、福祉、矯正、更にはデジタル行政やモビリティ政策に至るまで、各国が直面する社会課題に対して、制度と技術、そして地域コミュニティの力を融合させながら柔軟かつ持続可能に対応している実態を学ぶことができました。特に、教育現場では「子どもを中心に据える設計」、福祉の分野では「家族単位での切れ目ない支援」、矯正では「社会復帰を前提とした制度構築」が共通しており、いずれも人を大切にする社会づくりの根幹をなしていると感じました。 また、電子政府やX-Road、Smart-IDなどに象徴されるデジタルインフラの整備は、行政の効率化や市民サービスの向上に直結しており、我が国においても中山間地域や少子高齢化が進む自治体でこそ、その導入意義は大きいと確信しました。広島県においても、教育や子育て、公共交通、行政手続の効率化など多岐にわたる分野で、現地で得た知見を実装・応用していくことが、地域課題の解決に向けた重要な一歩になると考えています。今後も視察で得た示唆を議会活動や政策提言に活かし、住民福祉の向上と地域の持続的発展に貢献してまいります。